現在いくつかの研究を同時並行して進めていますが、それらを大きく分けると以下の4つのテーマに分類できます。重なる部分もありますが、必ずしも互いに繋がっていたり、連動しているわけではありません。共同研究や参画するプロジェクトに合わせて発展させたり、補足したり、継ぎ足したりして、継続的に研究を進めています。
1. ロマン主義に関する研究
イギリスのロマン主義、とりわけ詩人であり思想家・哲学者でもあったコウルリッジの詩や思想・哲学を軸にしながら、それ以外の詩人や作家たちの作品を扱ってきました。
テーマとして強い関心を抱いているのが、「共感(sympathy)」や「博愛(philanthropy)」「仁愛(benevolence)」といった理念、あるいは感情が、この時代の社会的・歴史的文脈のなかでどのように位置づけられ、定義され、そして文学を含めたさまざまな言説を通して流通していったかです。近年興隆した感情史(history of emotions)の領域とも関わりますが、もともとは観念史(history of ideas)および心性(mentalités)研究として出発しています。
ロマン主義時代にこだわることなく、女性にとってこうした理念や感情がどのような意味を持っていたかについても、同時に研究を進めてきました。18世紀末から19世紀半ばにかけての女性詩人や女性小説家のテクストから、その位相を明らかにしようとしています。
2. 建築・都市の文学的表象に関する研究
イギリス近代の建築や都市が文学テクストにおいてどのように立ち現れているかを、時代や歴史的文脈との関係を考証しながら解きほぐしてきました。『家のイングランド ― 社会の変貌と建築物の詩学』(2019年)はその成果の一つです。その延長線上で、ロンドンという都市空間の表象についても、歴史的・文化的観点から解きほぐそうと断続的に研究を継続しています。
3. 農業・エコロジーと文学をテーマにした研究
イギリス・ロマン主義研究を志すことになったのは、ウィリアム・ワーズワスの詩に故郷の自然風景らしきものを読み込んでしまったからなのですが、エコロジーというテーマをロマン主義研究に導入したジョナサン・ベイトの『ロマンティック・エコロジー』(1991年)を通して、環境に関わる問題を文学研究という視点から追究することの意義を教えられて、発展させようとしています。牧歌(pastoral)よりも農耕詩(georgics)の系譜に関心があります。
4. 比較文化・比較文学に関する研究
イギリス・ロマン主義の日本における受容や理解は一つの重要な研究課題として扱ってきました。ラフカディオ・ハーン(日本名 小泉八雲)は日本におけるロマン主義受容の要の一人でもあり、機会あるごとに少しずつ研究を進めています。
5. それ以外
上記以外のテーマでも依頼を受けて口頭発表などもすることがあります。教科書や事典についても積極的に関与してきました。
以下では上述の主な研究テーマ別に関係する出版物のみを新しいものから順に掲載しておきます。それぞれについて口頭での研究発表や講演なども機会あるごとに行っています。詳細は私のResearch Mapのサイトに掲載された業績をご確認ください。
ロマン主義に関する研究
(チャリティ・共感の心性に関わるものを含む)
編著書
- (単編著)『コウルリッジのロマン主義――その詩学・哲学・宗教・科学』(東京: 東京大学出版会、2020年3月)512頁。
- (共編著)Coleridge, Romanticism, and the Orient: Cultural Negotiations, co-edited with David Vallins and Seamus Perry (London: Bloomsbury, 2013.6), 224pp.
論文(単著) “Oriental Aesthetes and Modernity: The Reception of Coleridge in Early Twentieth-Century Japan.” pp.85-99. - (共編著) 大石和欣・(共編著)『境界線上の文学 ― 名古屋大学英文学会第50回大会記念論集』共編者 滝川睦・中田晶子(東京: 彩流社、2013年3月) 259頁。
論文(単著)「序 ― 迷界の閃光」 5-9頁。「説明責任の耐えられない重さ ― フランシス・バーニーの『セシーリア』における公 / 私の境界」 101-20頁。 - (共編著) Cross-Cultural Negotiations: Romanticism, Mobility and the Orient. POETICA 75 (Special Issue), co-edited with Felicity James (Dec. 2011), 162pp.
共著書所収論文
- (単著) 「奴隷貿易とその廃止運動を再考する ― チャリティと共感の観念史を通して」、國分功一郎・清水光明編『地球的思考 ― グローバル・スタディーズの課題』(水声社、2022年)45-78頁。
- (単著)“An ‘Exot’ Teacher of Romanticism in Japan: Lafcadio Hearn and the Literature of the Ghostly,” in Lawrence Williams and Alex Watson (eds.), British Romanticism in Asia (Basingstoke: Palgrave, 2019.3), pp. 93-118.
- (単著)“Contemplation and Philanthropy: Coleridge, Owen, and the ‘Well-Being of Nations,’” in Peter Cheyne (ed.), Coleridge and Contemplation (Oxford: Oxford UP, 2017.8), pp. 123-141.
- (単著)“The Genealogy of The Scientific Sublime: Glaciers, Mountains, and The Alternating Modes of Representation,” in Steven Clark and Tristanne Connolly (eds.), British Romanticism in European Perspective: Into the Eurozone (Basingstoke: Palgrave, 2015.9), pp.26-44.
- (単著)「パロディとしてのチャリティ ― エマとモアと公共圏 ―」、『英国小説研究』同人編 『英国小説研究 No.24』(英宝社、2012年12月)32-59頁。
- (単著)「富と貧困、消費と奴隷 ― 18世紀イギリス社会の光と闇」、小田原瑤子編『中京大学文化科学叢書 第13編 ― ヨーロッパ文化の光と陰』(勁草書房、2012年3月)29-52頁。
- (単著)「パロディとテクスト布置解釈学 ― イギリス・ロマン主義時代の一例」、松澤和宏編 『テクストの解釈学』 (水声社、2012年3月) 237-62頁。
- (単著)「『共感の疼き』 ― 女性詩人たちとそれぞれの奴隷貿易廃止運動」、新見肇子・鈴木雅之編『揺るぎなき信念 ― イギリス・ロマン主義論集』 (彩流社、2012年3月)29-45頁。
- (単著)「境界線上のルポルタージュ ― フランスからのイギリス人女性の手紙」見市雅俊編 『近代イギリスを読む ― 文学の語りと歴史の語り』(法政大学出版局、2011年5月)151-91頁。
- (単著)“Unitarian Women and the Cross-denominational Alliance for Philanthropy: Anna Laetitia Barbauld, Catharine Cappe, and Catherine Clarkson.” ジョンソン協会編 『十八世紀イギリス文学研究 4』(開拓社、2010年5月) 269-92頁。
学術雑誌論文(査読有)
- (単著) 「Austenの公共圏」『関東英文学研究』第11号(2019年)1-10頁。
- (単著) 「コスモポリタニズムの歴史的文脈」『日本18世紀学会年報』第33号(2018年)1-5頁。
- (単著)「ギャスケル v. ギャスケル ― ユニテリアン男性たちの言説とユニテリアン女性たちの公共圏 ―」 『ギャスケル論集』第25号(2015年)31-44頁。
- (単著)「ヴォランタリズムとジェンダー ― 文学と歴史の境域」 『ヴィクトリア朝文化研究』第12巻(2014年)27-34頁。
- (単著) 「FranceからPeruへ ― Helen Maria Williamsの歴史記述の周縁性」『日本ジョンソン協会年報』第34号(2010年)1-5頁。
- (単著)“‘An Unaccountable Diagonal’: Coleridge as a Faltering Unitarian Philanthropist,” IVY 42 (2010), pp. 23-41.
- (単著)“The ‘Scions of Charity’: Cowper, the Evangelical Revival, and Coleridge in the 1790s,” Studies in English Literature (English Version) 50 (2009), pp. 45-64.
- (単著)「氾濫する慈善とHannah Moreの福音主義 ― Coelebs in Search of a Wifeの逆説(パラドックス)」『英文学研究』第85巻(2008年)27-41頁。
- (単著)「錯綜する慈善のイデオロギー ― ハナ・モアと奴隷貿易廃止運動」『ロマン派研究』 第32号(2008年)1-13頁。
- (単著)「優柔で、不安な女性の慈善 ― Mary WollstonecraftのMaryのその背景」『英文学研究』第83巻(2006年)1-14頁。
- (単著)“Coleridge’s Philanthropy: Poverty, Dissenting Radicalism, and the Language of Benevolence,” Coleridge Bulletin, n.s.15 (2000), pp. 56-70.
学術誌・紀要論文(査読無)
- (単著)「奇しき幻影 ― 『亡霊たちの浜辺』とメアリ・ロビンソンの不安定なアイデンティティ」『放送大学研究年報』第26号(2008年)107-18頁。
- (単著)「『引喩』の政治性 ― ロマン主義時代の女性詩における感受性言語と『公共圏の不安』」『放送大学研究年報』第24号(2006年)85-92頁。
- (単著)「女性の慈善とバーボールドの曖昧な「公共心」 ― ユニタリアン文化のジェンダー問題」『放送大学研究年報』第23号(2005年)65-78頁。
建築・都市の文学的表象に関する研究
学術書
共著書所収論文
- (単著)「都市が生んだ風景画 ― トマス・ガーティンの《アイドメトロポリス》からの眺望」、小野寺玲子編『ランドスケープとモダニティ ― トマス・ガーティンからウィンダム・ルイスへ』 (ありな書房、2019年)9-56頁。
- (単著)「ド・クインシーの自伝とロンドン表象 ― 苦痛を陶酔に変える倒錯空間(パヴァートピア)」、富士川義之編『ノンフィクションの英米文学』(金星堂、2018年)52-64頁。
- (単著)「郊外の不気味なレズビアン・ゴシック ― サラ・ウォーターズの『寄宿人たち』」、河内恵子編『現代イギリス小説の「今」 ― 記憶と歴史』(彩流社、2018年)149-92頁。
- (単著)「病んだ精神と環境感受性 ― ウィリアム・クーパーの持続可能な詩景」、小口一郎編『ロマン主義エコロジーの詩学 ― 環境感受性の芽生えと展開』(音羽書房鶴見書店、2015年)183-216頁。
- (単著)「混濁の「帝都」 ― ヴィクトリア朝時代の建築物のダイナミズム」、山口惠理子編『ロンドン ― アートとテクノロジー』(竹林舎、2014年)31-61頁。
学術誌・紀要論文など(査読無)
- (単著)「ヘレン・アリンガムのコテッジ表象とその系譜 ― ラスキンが見落としたもの」『ラスキン文庫だより』 第82号 (2021年10月): 1-7頁。
- (単著)「建築物の詩学 ― 奇矯なるジョン・ベッチャマンの戦い」『言語・情報・テクスト』 第19号、2012年12月、69-99頁(無査読)。
農業・エコロジーと文学をテーマにした研究
共著書所収論文
- (単著)“William Cowper and Suburban Environmental Aesthetics,” in Ve-Yin Tee (ed.), Romantic Environmental Sensibility: Nature, Class and Empire (Edinburgh: Edinburgh University Press, 2022), pp. 141-56.
- (単著)「老いた猟犬係と羊飼い ― ワーズワスと戦争詩人の反農耕詩」植月恵一郎編『農耕詩の諸変奏』(英宝社、2008年)133-68頁。
学術誌・紀要論文など(査読無)
- (単著)「“Arts”と“Sciences”――『農耕詩』から『四季』まで」『EAA Forum 5 座談会3 アーツの再定義』(東京大学東アジア藝文書院、2021年)23-39頁。
- (単著)「ラスキンと『アメニティ』 ― 震災と福島原発事故に際して想うこと」『ラスキン文庫だより』第61号(2011年)8-12頁。
- (単著)「『精神の所有物』の継承 ― ナショナル・トラストと環境思想」『名古屋大学文学部研究論集(哲学)』第57号(2011年)1-18頁。
- (単著)「廃墟のエコロジー」 『d/sign』 第11号(2005年)88-93頁。
- (単著)「R. S. トマスのウェールズ農耕詩 ― イアゴ・プリサーチが歩き続ける不条理な原自然的風景」『放送大学研究年報』第22号(2004年)93-100頁。
- (単著)“Convention and Innovation: Wintry Landscapes of Desolation in Pastoral Elegy.”『放送大学研究年報』第21号(2003年)147-69頁。
復刻版編集・解説
- (共編・共著)Foundations of the National Trust: Lives and Works of Octavia Hill, Robert Hunter and H. D. Rawnsley, 5 vols. (Kyoto: Eureka Press, 2011). (共著者 出島有紀子)
比較文化・比較文学に関する研究
(ラフカディオ・ハーン研究を含む)
共著書所収論文
- (共著)“The Aesthetics of Weeds: A Case in Junzaburō Nishiwaki,” co-authored by Yasuo Kobayashi, in Peter Cheyne (ed.), Imperfectionist Aesthetics in Art and Everyday Life (London: Routledge, 2023), pp. 145-57.
- (単著)“An ‘Exot’ Teacher of Romanticism in Japan: Lafcadio Hearn and the Literature of the Ghostly,” in Lawrence Williams and Alex Watson (eds.), British Romanticism in Asia (Basingstoke: Palgrave, 2019.3), pp. 93-118.
- (単著) “Oriental Aesthetes and Modernity: The Reception of Coleridge in Early Twentieth-Century Japan,” in Coleridge, Romanticism, and the Orient: Cultural Negotiations, co-edited with David Vallins and Seamus Perry (London: Bloomsbury, 2013.6), pp.85-99.
- (単著)「영국 연회의 식탁에 지식을 올리라 : 네이버캐스트」(「イギリスの宴会に知識をご馳走せよ」)、안대회・이용철編『18세기의맛 ― 취향의 탄생과 혀끝의 인문학』(『一八世紀の味―趣向の誕生と舌先の人文学』)(ソウル: 문학동네(文学村), 2014年2月)281-93頁。
- (単著)“An Ideological Map of (Mis)Reading: William Blake and Yanagi Muneyoshi in Early Twentieth-century Japan,” in Masashi Suzuki and Steve Clark (eds.), The Reception of Blake in the Orient (London: Continuum, 2006. 11), pp.181-94.
学術誌論文(査読有)
- (単著)「ヴィクトリア朝の南方熊楠 ― コスモポリタン的知性の巡礼」『ヴィクトリア朝文化研究』第16号(2018年)49-66頁。
学術誌・紀要論文(査読無)
- (単著)「洞窟からのため息 ― 洞窟壁画、竹山道雄、ロマン主義的ファンタジア ―」『言語・情報・テクスト』第24号(2017年)41-62頁。
- (単著)“Two Recollective Journeys to the North: Bashō and Wordsworth,” in Mike Collier (ed.), Wordsworth and Bashō: Walking Poets (Manchester: Art Editions North/ The Wordsworth Trust, 2014), pp.49-51.[日本語訳 pp.164-66.] [展覧会カタログ]
その他
学術誌・紀要論文など(査読無)
- (単著)「ある道路工事人と唯美主義者の肖像-ワイルドの社会主義とアメリカ講演」『オスカー・ワイルド研究』第11号(2010年)67-76頁。
- (単著)「亡霊たちのオデュッセイア - シャベール大佐と墓畔のW・G・ゼーボルド」『八事』 第25号(2009年)101-04頁。
- (単著・創作エッセイ)「Composed upon the Millennium Bridge - 七色の朝祷(マタン)」『午前四時のブルー』第2号(2018年)39-47頁。
教科書
-
(共著)『イギリス文学入門』石塚久郎ほか編著(三修社、2014年5月)「18世紀(詩)」96-97頁「コリンズとグレイ」120-121頁「ウィリアム・クーパー」124-125頁
- (共編・著)『実践英語(’10)― 映画とドラマで学ぶ』 (放送大学教育振興会、2010年)222 頁。(共著者: Stuart Varnam-Atkin、井口篤)
- (共編・著)『スキット基礎英語-Welcome to Japan』(音羽書房鶴見書店、2009年) 77頁。(共編著者: 大橋理枝、Jon Brokering)
- (共編・著)『基礎からの英文法(’09)』(放送大学教育振興会、2009年)177頁。(共著者: 大橋理枝、Stuart Varnam-Atkin)
- (共著)『異文化の交流と共存(’09)』工藤庸子編(放送大学教育振興会、2009年) 244頁。(共著者: 工藤庸子、高橋和夫、宮本徹)
第5章 「宗教と文明(5) - 寛容と不寛容のプロテスタンティズム」 69-85頁。
第6章「人種と民族とジェンダー(1) - 奴隷貿易・奴隷制というトラウマ」86-103頁。
第11章「人種と民族とジェンダー(6) - 多文化(=他文化)の表象としての移民へのまなざし」167-81頁。
第12章「言語と文化(1) - ディアスポラな英語の増殖」182-97頁。 - (共編・著)『物理の考え方(’07)』(放送大学教育振興会、2007年)237頁。(共著者: 木村龍治)
「文学の眼で見ると」のコーナー [24-25, 37-38, 49-50, 63-65, 81-82, 95-96, 108-09, 122-23, 135-37, 146-48, 160-61, 172-73, 188-89, 203-04, 215-17頁。] - (共編・著)『世界の名作を読む(’07)』(放送大学教育振興会、2007年)172pp. (共編者: 工藤庸子、共著者: 池内紀、沼野充義、柴田元幸)
第3章「エミリー・ブロンテ 『嵐が丘』」27-36頁。
第10章「ヴァージニア・ウルフ 『ダロウェイ夫人』」108-16頁。 - (共編・著)『英語総合A(’05) - 歴史・文化・社会』(放送大学教育振興会、2005年)215頁。 (共著者: 草光俊雄)
- (共編・著)『英語基礎A(’05) - Welcome to Japan』(放送大学教育振興会、2005年)238頁。(共著者: 大橋理枝)
辞典・事典寄稿
- 『啓蒙辞典』(丸善、2023年)
(執筆担当)「奴隷貿易」
(執筆担当)「ラディカリズム」
(執筆担当)「博愛」 - 『広辞苑』(第7版)(岩波書店、2018年)
(担当)イギリス地名 - 『イギリス哲学・思想事典』日本イギリス哲学学会編(研究社、2007年)
(執筆担当)「自然保護運動」(nature preservation)224-26頁。
(執筆担当)「仁愛」(benevolence)290-92頁。